時間:恋が転入してきた日の休憩時間 場所:教室
男A「ねぇねぇ、七瀬さんって昔に藤野中通ってたでしょ。 俺も同じだったんだけど覚えてない?」
男B「七瀬さんの血液型って何型?」
男C「七瀬さんって藤野中でも凄い人気だったよね」
男D「部活どこに入るか決めてる? 卓球部入ろ、卓球部」
恋「え……え?」
瞬く間に七瀬の席は男共によって包囲されてしまった。
噂を聞きつけた他のクラスの男子まで混じっている。
男E「な、七瀬さんってあの七瀬さん……いやぁ、やっぱ綺麗だなぁ」
男F「なっつかしー、っていうか一段といい女の子になってんじゃん」
男G「七瀬さんっ、ぜひワタクシめを召使としてこき使ってくださいっ」
男H「七瀬さんって住んでるトコどこ? 俺は春日野町辺りなんだけど」
男I「七瀬さんっ! 一目惚れしましたっ! ぜひぜひ付き合ってくださいぃぃっ!」
男J「おいテメェ! 七瀬さんファンクラブ会員番号1番の俺を差し置いて何言ってんだボケッ!」
周りの席を巻き込む程の人だかり。
こりゃあ、当分は話すどころかまともに顔を合わせることさえ難しそうだ……
伽羅「まるで死肉にむらがるハエのよう。 あぁ醜い」
武「仮にも同級生をハエ呼ばわりするなよ……」
つーかそれだと七瀬が死肉……
伽羅「ところでさ、アンタあのお嬢様の知り合いかなんかなの?」
武「え? どうしてだよ」
伽羅「だってアンタの顔見て笑ってたじゃん、あの子。 可愛らしくニコッてさぁ」
武「む……」
目ざとく見ていたようだ。
武「あぁ。 前の学校の時の友達だったんだ」
伽羅「へぇ〜、やっぱそうだったんだ。 かなり身分不相応って感じだけど」
武「身分不相応って何だよ?」
伽羅「アンタがあの子と友達だなんて、奴隷と女王様が友達ってくらいありえないって話」
武「おい……」
伽羅「脅して無理矢理お近づきになったの?
この写真をばら撒かれたくなかったら友達になれ! とか」
武「んな事するかっつーの!」
伽羅「またまたぁ。 鬼畜行為はアンタのお家芸でしょ」
武「勝手に人ン家のお家芸を変なものにするなっ!」
伽羅「あの子と長い付き合いだったりするわけ?」
武「ん……あぁ。 3年間一緒のクラスだったんだ」
伽羅「ふぅん。 久しぶりの再会で嬉しかったりする?
『くくく……』とか『へへへ……』とか内心思ってたり」
武「……お前は今まで俺をそんな変態だと思って見てたのか?」
伽羅「うん」
武「その認識は今すぐ修正してくれ、頼むから」
2時間目、3時間目の休み時間……
……そして昼休みになっても、七瀬の席の周辺は人で埋まっていた。
俺と何度か目が合って微笑んでくれたけど、それだけ。
ほんと、呆れるほどに凄い人気だ……
ひさびさに会ったんだし、一緒に飯でも……とも思ったけど、とても無理そうだ。
輝は……
しっかり七瀬を囲む輪に加わっていた。
ったく、何やってんだか。
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――昼休み。
武「さて、と……」
今日は父さんが弁当を作ってくれたので、机の上に出して食べる。
伽羅「じーーー」
武「………」
伽羅「じーーー」
武「……何だよ」
俺が食べてる横で、伽羅が人差し指を咥えて立っていた。
伽羅「聞いてくださいよ。
アタシったらねぇ、財布を忘れて裸足でネコに追っかけられちゃったの。
かなり日曜日の夕方やってるアニメの歌みたいなシチュエーションだよ」
武「……凄いフィクション臭いが、それで?」
伽羅「財布を忘れたの」
武「……で?」
伽羅「それ恵んで」
伽羅は今俺が食べている弁当を指差した。
武「って、これ俺の弁当だぞ」
伽羅「いいでしょ、恵んで」
武「……よくないだろ。 これ渡したら俺は何を食えばいいんだ」
伽羅「弁当箱は返すから、それ食べれば?」
武「……俺はいたって普通の人間なんでそんな事はできない」
伽羅「じゃあ我慢するしかないんじゃない?」
武「失せろ。 しっ」
伽羅「ええ〜〜っ……」
俺は伽羅に構わず飯を食べる。
伽羅「じーーーー」
武「………」
伽羅「じぃーーーー」
武「………」
………
……
伽羅がジト目で見つめるのも厭わず、俺は父さんの作った弁当を綺麗に完食した。
伽羅「こ、この薄情者ぉ……米粒ひとつ残らず食い尽しやがってぇ……」
武「俺の弁当なんだから当然だろ?」
伽羅「おかずを少しくらい分けてくれたっていいだろうによぉ……」
武「………」
ちょっと、悪い事をした気分……
伽羅「……いいよもう、自分の弁当食うから」
武「持ってたんかい!」
伽羅「財布は忘れたけど弁当持ってきてないとは言ってないじゃん」
武「………」
こいつに罪悪感を覚えた自分がバカだった……
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